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東京高等裁判所 昭和24年(新を)2850号 判決 1950年6月15日

被告人

矢野清一郎

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審における未決勾留日数中百五十日を本刑に算入する。

理由

弁護人榊純義の控訴趣意第一点について。

所論指摘の学業成績証明書、身上調書、被告人の司法警察員の面前調書、被告人の検察官の面前調書はいずれも訴訟に関し作成せられた書類であつて、書面の意義が証拠となるものであり、書面の存在並びにその形体が証拠となるものではない。従つて、右書面は刑事訴訟法上証拠書類と解すべく、その証拠の取調は同法第三百五条に定める手続の履踐があれば十分であつて、証拠物の証拠取調手続を定めた同法第三百六条所定の手続を経ることを要しないことは言を俊たず、更にいちいち右各書面について検するもこれを被告人に示さなければ、書面の意義を了解させるに困難であるというような点は認められない。然らば、右各書面は適法な証拠調を経たものであつてこれを事実認定の資料に供したのは当然であり、何等違法の点はないのみならず、被告人の防禦権を不当に制限したことにならないことは勿論である。論旨は理由がない。

(弁護人榊純義の控訴趣意書)

第一  原判決は被告人に対し殺人未遂の事実を認定し、証拠として、一、被告人の当公廷に於ける供述、二、検察官の被告人に対する供述調書及び弁解録取書及び供述調書中の同人供述記載(以下省略)等を採用し主文の如く判決した。然れども記録第六十三丁裏三行目以下の記載によれば、

検察官は、一、学業成績証明書、二、身上調書、三、被告人の司法警察員の面前調書、四、被告人の検察官の面前調書各二通の取調を請求し云々(中略)。

検察官は前記各書面を朗読の上これを裁判長に提出したとあり、單に刑事訴訟法第三百五条第一項の手続を履踐したのみで同法第三百六条第一項の手続を履踐した形跡がない。刑事訴訟規則第四十四条本文の規定よりしても、公判調書には一切の訴訟手続が記載されてなければならないのであるから、原審は明らかにこの手続を怠つたものである。刑事訴訟法が、第三百五条と独立して第三百六条を規定した趣旨に徴すれば、証拠調について此の手続を履踐しないことは許さるべきでない。此等の書類を短時間朗続せられたのみでは、朗続者の誤続、読落し、(解の文字等)方言、なまり等に関し聽取者をして誤解せしむる点もあるべく、又同発言にて意義の異る語もあるべし、又全体を通じての意味等実際に提示されて初めて捕捉さるゝ場合多し。殊に書類作成状況等に関する判断は單に朗続を聽取したのみでは充分でない。要するに凡て書類は読むべく作成せられ、聽くべく作られたものでない。ラジオの放送に新聞記事を朗読しても理解し難い点が多いであらう。

若し原審に於て刑訴第三百六条の手続が履踐せられたならば、原審弁護人は異議をなしたかも知れない。

要するに同法条の手続を履踐しない書証を断罪の資料に供したことは判決に影響を及ぼすべき法令の違反である。

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